歌手の千昌夫さんはまさしく天国と地獄を味わった。
かつては大変な資産家として超リッチな生活を送っていたが、
バブル崩壊で巨額の借金を背負うはめになった。
そんな千さんが上京した時の話。
小さいころから歌手になると決めていた彼は、
高校の修学旅行で上京する時、うまい手を考えついた。
あらかじめ宿泊する旅館に「ハハキトク スグカエレ」という電報を
打っておき到着するや先生に見せた。
そして、作曲家の遠藤実さんの家に直行。自分の歌を聴いてくれと頼んだ。
3日間粘った末、遠藤さんは根負けし、歌を聴くことになった。
ところが、自己流で歌ってきたので、ピアノの伴奏と合わない。
すると、千さんはこう言ったのだ。
「先生、そのピアノ止めて、俺に一人で歌わせてください」
遠藤さんはとにかく高校だけは卒業するように、千さんを諭して帰らせた。
やれやれと思っていると、ほどなく岩手県から荷物が届いた。
「そうか、いろいろ迷惑かけたお礼にリンゴでも送ってきたんだろう。
見かけによらず感心な奴だ」
遠藤さんが中を開けると、なかには布団一式が入っていたのである。
驚いていると、千さんが玄関から姿を現わし、こう言った。
「先生、それは俺が寝る布団ですよ」
大成する人間にはこれくらいの図々しさと粘りが必要なのだろう。
そんな千さんは、今は自ら「歌う借金王」と名乗って営業を続けている。
人間、これくらいタフに生きられたらいいよね。